熱狂の陰で

阪神優勝、やっとその興奮が醒めてはきたが、日本シリーズで勝ったらさらに大変なことになるだろう。道頓堀へ次から次へ飛び込む熱狂振りを見て、関西人のエネルギーは、関東人とは違うなと、いまさらながらに感じいってしまった。私の尊敬してやまぬ歴史家網野善彦氏は、その著書で、西の民と東の民のルーツの違いを指摘している。西の民は遠く東アジアに連なるルーツがあり、東の民とは異なるという説だ。あの黄色の猛虎集団をテレビ画面で見ながら、ワールドカップの韓国の赤い集団の熱狂振りとも重なってみえた。昨年Vの巨人軍の銀座パレードと、何たる違いか。

熱狂の陰で自民党総裁選が終わった。この間、どのチャンネルを回しても四候補の顔見世大興行。小泉総理の余裕の表情、巧みなトークに、他候補は圧倒される。話がうまい。クールだが人を食った口調は、誰かに似ていたな・・そうだ久米宏。「改革」のスローガンはあっても、具体論(何をいつまでに、というマニフェスト公約は一切口にしない)は言及を避ける。他候補も批判はしても、具体的な追及は手ぬるい。どのチャンネルを見ても同じ議論主張の繰り返しで、内容のなさが露呈しやがてうんざり。国を語りながらも、内実は自民党の派閥権力闘争。小泉氏の思惑通り橋本派は解体されたが、永田町の地図が、森、山崎派それに参院青木派が中心の、新総裁派閥に取って代わっただけの話である。国民人気のなかった森前総理が今回は裏選対を仕切った。後見人を自認する森前総理が「純ちゃんが、純ちゃんが」とうれしそうに語っていると聞きうんざりする。みんな、小泉純一郎が国民人気をしょっているのを知っている。選挙の「顔」は小泉しかいない。とりあえず、首相に祭り上げて選挙に勝って自派閥の勢力(権益)を拡大し、それから、郵政民営化や道路公団問題を、玉虫色、骨抜きにすればいいと考えている。3年総裁を務めれば、もう小泉さんは“上がり”なのだから、この間何とかしのげばいい・・多分、こんな程度で、判断しているのだと思う。選挙に勝つことは小泉首相のノルマになった。早速安倍幹事長の起用という手を打った。ここまでは人事の天才、小泉首相の思惑通りである。早速高支持率に跳ね返っている。選挙の「顔」とは、よくよく考えると選挙民を馬鹿にした話である。選挙民はムード、人気者、タレントに弱いと見透かされているわけである。

一転この日本を取り巻く世界を見ると、国内情勢は深刻な国際情勢の上に立つ楼閣であることがわかる。新総裁の足元を危うくする国際問題が山積だ。イラク戦争の正義について、国際世論は明らかに風向きが変わってきている。小泉さんが頼みとするブッシュの再選も黄信号。もしブッシュが負けたら日米関係はどうなるのか。ブレアも窮地に陥っている。イラク戦後処理も、アメリカ単独では無理と、当のアメリカも認めざるを得ない状況になり、臆面もなく国連頼みに走っている。イラク戦争反対のフランス、ドイツの発言権が高まる。そんな力関係の変化はパレスチナ問題に波及する。イスラエル、パレスチナはつかの間の停戦合意が破談し、テロの応酬が始まっている。そんな状況下で北朝鮮問題は果たして進展するのか後退するのか。世界唯一の強大国をめざすアメリカは苦しい局面を迎える。膨大なイラク復興経費がアメリカ経済を圧迫し始めている。アメリカに無条件追随の小泉政権は、複雑な様相を呈してきた国際関係で自国の国益をどう舵取りしようというのか。テロに対する正義といった、単純な話ではないだろう。間もなくブッシュがイラク戦費の莫大な請求書を持って来日する、自衛隊を早く派遣しろとも言うだろう。

先日WTOの閣僚交渉が決裂した。遠くメキシコのカンクンで行われたこの国際会議の重要性を日本ではあまり大きく認識されてはいないようだが、農業の自由化をめぐって、アメリカ、EUら富める地域と、アフリカ、中米など貧しい地域との溝は決定的になった。先進国との妥協を拒んだ途上国の発言権が増してくるだろう。国連といい、WTOといい、国際機関の歯止めがますます利かなくなくなり、機能不全を起こし始めた。国連主義とは聞こえがいいが、みな、国益の方便としての国連主義である。一国の利益を各国が主張し、それが統制できない場合、さまざまな形で国際紛争が起こる。そして、解決手段として、武力が使われることも多くなるだろう。混乱は、地域、民族、宗教をめぐる混乱に拍車をかける。時としてテロリストがそれに加わってくる。
この秋、衆院議員選挙の一大テレビショーに、うつつを抜かしている場合ではないことだけは確かである。
(S)