ルーシーに会いたい・・♪☆!

 アメリカで本物の「ルーシー」の巡回展示が企画されているというニュースが目に飛び込んできた。ルーシーとはアウストラロピテクス・アファレシスの属名で呼ばれる350万年前に生きていた人類の化石。ルーシーというのは別称(愛称と言ってもいい)でもある。  

 東京上野の科学博物館の人類の進化のコーナーでその「ルーシー」の直立像(骨格のレプリカではない)の展示を見ることが出来る。身長約110センチと背は低いが、愛くるしい成人の女性である。もちろん、多分こうであったろうと想像して作られたマネキン模型だ。ルーシーは1974年に北アフリカのエチオピアの有名な大地溝帯で発見された。世紀の大発見と言っていい。何しろ人体のほぼ40%もの骨格が奇跡的に見事に残っていたのだ(発見される初期のヒト化石はほとんど歯や顎、腿などの一部しか残っていない)。化石の詳細からルーシーが直立二足歩行(ヒトである最大の証拠)をしていることが確実となり、一時はヒトの最古の化石として世界中を涌かせた。年代はおよそ350万年前と推定された。

 その後、さらに古いヒト化石が発見され、またルーシーは今日の我々に繋がる直接の祖先ではないことが判明したが、ヒトの系譜をたどる上でのその価値は全く下がっていない。我々(ホモ・サピエンス)への進化は一本線ではなく、過去においてヒトは様々な種類が存在していたのだ。ホモ・サピエンスを除いてすべては絶えてしまった。有名なネアンデルタール人も、その絶滅したヒト属である。

 化石はもろい。そのために貴重なヒト化石は慎重にレプリカが作られ、本物はそれが発見された国(ほとんどがアフリカ)の金庫に、厳重な管理の下に保存されている。国宝を超える貴重な世界遺産である。その本物が、ましてや「ルーシー」が一般公開されるというのだから、驚くべきニュースなのである。研究者たちから懸念の声が上がっているがそれは理解できる。ちょっとしたキズがついたとしたら、取り返しがつかないのである。でも、見てみたいと、一般人なら、誰しも思うだろう。無事公開にたどり着けるだろうか。

 全米で公開が検討されているということも面白い。実は保守的なキリスト教の国であるアメリカでは、今日、ダーウインの進化論をも否定し、すべては神が創られたのだと、堂々と学校で教えているところもあるくらいなのだ。

 ヒトは霊長類と祖先を同じくする。遠い昔まずその幹からオランウータンが分かれ、次にゴリラ、そして最期にチンパンジーが枝分かれしたといわれる(チンパンジーとヒトとの遺伝子の塩基配列の差異はほんの僅かだ)。そして我々人類の祖先は7〜800万年前にやっとアフリカで生まれることとなる(もっと古いという説もある)。やがてアフリカの大地から、人類の一部は寒さと戦いながらヨーロッパへ渡り、また一部はアジアへと渡る。また、ある者はやがてシベリアからアラスカへ、そしてアメリカ大陸と渡り、さらにははるばる南アメリカ大陸へと渡った。その適応変化の歴史の結果として、今日の多様な肌の色や身体の差を生み出した。遺伝学、分子生物学、人類学の、今日のほぼ定説である。しかし、これを認めないアメリカ人は多い。だから、このルーシーの公開の裏には、真実を理解して欲しいという、自然科学者や研究者の切なる願いも感じ取れるのである。

 残念ながら、日本にいる私にはルーシーを見るチャンスはない。
 ルーシーに興味を持つにはこんな理由もある。それはルーシーの名前の由来にまつわるエピソードだ。苦難を極めたであろうアフリカの秘境での発掘調査に携わった隊員たちは、当然ながらその発見に狂喜した。人類史の1ページを開く大発見なのだから、その時の興奮は想像を超えたものであったろう。発見の夜、携えた食料を大盤振る舞いして杯を掲げ、お互いの健闘を祝した。宴は終わることなく続いたという。その時カセットデッキから、ビートルズの最高傑作といわれるアルバム「サージェントペッパーズ〜」に収録された(確か3曲目)「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウイズ・ダイアモンズ」が朝まで繰り返し大音響で流されたのだった。そのことから隊員たちにこの化石がルーシーと呼ばれることとなったのである。

 この曲は、ビートルズ世代のボクにとっても忘れられない。ルーシー(L)、スカイ(S)、ダイアモンズ(D)のイニシャルから、幻覚剤LSDの高揚感を歌ったものだという噂が当時まことしやかに流れた。ビートルズの面々がインドへ渡り、瞑想にふけった、そんな時代でもあった。歌うはジョン・レノンである。♪ルーシーが空にダイアモンドの輝きに包まれて輝いている・・歌詞の通り、ルーシーは輝ける光に包まれた栄光だった。大仕事を成した者たちを、そして漆黒のアフリカの大地を、この歌が祝福したのである。隊員たちの高揚が、ボクには全く理解できる。

 ルーシーもまた永い眠りから起こされたその夜、その調べを聞いた。350万年前、突然の崖崩れで一瞬のうちに川べりの土中に埋められ、奇跡的な保存環境のおかげで分解や崩壊を免れ(そう推測される)、化石として完璧にその姿を残すことが出来たルーシーにとっても、それは特別な夜であったに違いない。

 ボクがこの展示のプロデューサーだとしたら・・もちろん会場のBGMにこの曲を流すだろう。(S)